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80歳を越えた。身体が動かなくってきた。しかし思いは自由に羽ばたく。世界を駆け巡る。

詩人の恋

http://youtu.be/xv3kikhx0ug 
 
5月になると、私は毎年シューマンの「詩人の恋」を聴く。
この習慣が始まったのは、旧制中学時代からか、新制高校時代からか、よく覚えていないが、そんな昔から聴いてきた。

 

 この曲を初めて聞いた時の感動はいまでも忘れられない。
「詩人の恋」はハイネの詩に付けられた曲で「美しい五月には」
から始まる。

青年の愛の喜びと悲しみを歌ったメロディーは、心に染み渡り、
その美しさは聞いたものの心に深く沈殿して、
一生忘れることはできない。

 初めて聴いたのは、SPレコードであった。
誰が歌っていたかは覚えていない。家に手回しの「蓄音機」があった。
ハンドルで回して動かす、あれだ。
LPになるのはだいぶ時間がたってからだ。
今持っているのは、十数年前に買ったCDだ。
フリッツ・ヴンダーリッヒが歌っている。

毎年一回とはいえ、これだけ長い年月を超えて
聴き続けてきた曲は、数少ない。

 「詩人の恋」は、他の季節に聴いても、その美しさに
変わりないのだが、どういうわけか毎年五月と決めている。
音楽は不思議なもので、メロディーを聴いただけで、
時空を超えてある情景を一瞬にして思い起こす。

あの頃は毎日がバラ色に輝いていた。
スポンジが水を吸収するように、新しい知識を得ることの
よろこびと楽しさを感じていた。

 

 香りもそうだ。町中ですれ違った人の残り香で、特定の人を思い出す。
あ、これは、あの人の匂いだ。と、胸がきゅんとする。

 

 春は今、真っ盛り。地球上のすべてのいきものが躍動し始める。
老いぼれの私にも、儚い望みを抱かせてくれる一年で一番良い時期だ。

 春よ春。 ああ、今ひとたびの生きる歓びを与え給え。